第38回岩手県保険医協会定期総会アピール
本来の政治の要諦ということに思いを致すとき、まず国民の生命・財産を守ることでありましょうが、さらに期待し要求していいことがあります。それは、いかなる場合でも公平性の追求にあり、経済成長が縮小しても大多数の人が納得できる分配政策を実行することであります。
東日本大震災からすでに4年余、復旧・復興が遅々として進みません。21世紀のグローバリゼーションがもたらした不景気と時期が重なって、被災者の不運・不幸の上塗りをしてしまっているとはいえ、被災県の住民として心が痛みます。
当県の場合、本年3月末の時点で、27,573名もの方々が仮設住宅生活を余儀なくされています。うつ病を発生させ、災害関連死が絶えないストレスフルな仮設という状態は、余りに苛酷です。そのような中で、当協会も行ってきた要請の部分的成果ではありますが、国保と後期高齢者の窓口負担免除の継続は一縷の光明となりました。
福島第一原発事故の放射性物質の影響を過小評価する姿勢を崩さない政府に対して、国内外から不安や疑問の声が上がっています。原発周辺住民の安全対策が不十分なまま再稼働させる政治姿勢は、経済優先の誹りを免れません。今回の原発事故は、資本主義の帰趨として、経済成長を追及し続けることができる時代が終りかけていることを、われわれに明示しました。広範な地域の住民が長期的に浴び続ける低線量被ばくや、患者が医療で浴びる一時的被ばくの、健康に及ぼす影響についての関心も高まっています。
さて、最近の安倍政権と自民党の横暴さと勝手さは、目に余るものがあります。憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認と安保法制の拡大。知る権利を制限し、民主社会の基礎である自由な情報の流通を妨げる、特定秘密保護法の制定。震災復興への怠慢。貧富の格差の拡大放置。昨年末の衆議院選挙、4月の統一地方選と圧勝したことによる傲慢な国会運営。憲法13条の幸福追求権も、25条の生存権も、種々の基本的人権が、危機に瀕しているといえます。
そして、入院患者の負担増や国保の都道府県化、新たな混合診療制度の創設などが盛り込まれた医療保険制度改革関連法案が、今通常国会で成立しました。極めて短い審議時間であったため、内容が知られていない、患者の声を聞いていない、との不満があるとともに、患者の生活が成り立たなくなり、地域医療が崩壊するという危惧もあります。この度の如く、重要事案を一括し、審議不十分のままに国民のいのちと健康に関わる法案を成立させるやり方に、当協会は強く抗議してまいりました。
今年は戦後70年です。先の大戦で、300万人の日本人、2,000万人以上ともいわれるアジアの人々の尊い命が失われました。改めて、不戦の誓いを胸に刻むものです。平和とは何かと考える時、震災や原発事故の被災者のことを思わずにはいられません。被災者の方々は、現在戦争に関わっているわけではありませんが、平和を満喫しているわけでもありません。心の平安が約束されてこそ、真の平和です。しかし、これまで復興事業の全額を国が負担していたものを、政府は2016年度以降の分の一部で地元負担を求める方針を決めました。被災自治体は復興体制の長期化に疲弊しています。さも思惑有りげな「地方創生」を唱える前に、苦境に立つ人々が希望を持てる政策を示すべきです。
このような情勢のもと、岩手県保険医協会は、人々が安心して生活できる平和な社会を築いていくため、保険医の使命と医療団体の責任を持して、他団体とも協力しつつ、一層の努力をしてく所存であります。
第38回定期総会にあたり、この決意を表明するものであります。
2015年6月14日
第38回岩手県保険医協会定期総会