政策コンテストに対する批判
厚生労働大臣 長妻 昭 様
2010年8月30日
岩手県保険医協会
会長 箱石勝見
厚生労働省の医療指導管理官による「犯罪捜査のプロを指導監査で活用」
第一次選考通過に抗議します
当協会は、岩手県内の医師及び歯科医師で構成する団体です。
7 月 22 日、厚生労働省が全職員を対象に実施した「政策コンテスト」で、現職の向本時夫・保険局医療指導管理官による「保険医療指導監査部門の充実強化」の提案は表彰外となったものの、第一次選考を通過し二次選考の対象となりました。
その内容は、犯罪捜査のプロである警察庁や警視庁から出向者を受け入れて指導監査に当たらせよ、というもので、健康保険法や行政手続法などにもとづいて行われている指導監査に、犯罪捜査の手法を持ち込むべきという、法律の権限、趣旨を無視した提案です。これは、法律を遵守すべき公務員の立場を逸脱したものであり、こうした提案が第二次選考に残ったことについて大臣の責任は重大です。
同医療指導管理官の提案内容は、「権限の相違はあるものの、悪を正し刑罰(行政上の措置)を科す点においては共通点があることから、犯罪(詐欺罪)に対するプロである警察庁や警視庁(捜査第二課=知能犯、詐欺、横領担当)からの出向者」を指導監査部門に受け入れる、というものです。そもそも、健康保険法等では、監査における調査、質問又は検査についての権限は「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」(第 78条第 22 項、第7条の 38 第3項)と明記されています。ところが提案者は、「指導監査については、刑事事件と異なり強制捜査権はないが、事実を聴取し処分するといった点では共通」などと提案資料に記載しているように、「指導」と「監査」の区別どころか行政調査と犯罪捜査の区別までも無視するなど、指導監査の関連法令を意識的に無視した説明を行っています。
「指導」は、行政手続法にもとづき「任意の協力によってのみ」実現され、なおかつ指導大綱により「診療報酬の請求等に関する事項について周知徹底させることを主眼とし、懇切丁寧に行う」とされており、処分を前提としたものではありません。警察官を指導監査部門に出向させることで「職員の資質の向上を図る」とする考え方も含めて、保険医を「指導」の段階から被疑者(犯罪容疑者)扱いするものであり、このような提案をすること自体が指導監査の指揮を執る厚労省の担当者として不適格です。
保険医の人権を無視した指導、監査により、何人かの保険医が自殺に追い込まれています。
たとえ厚生労働省内部の「政策コンテスト」とは言え、こうした事態が起こったことは、厚労省の法令遵守についての基本姿勢が問われるものであり、厳しく抗議します。
以上