「医師の過不足と偏在について」(保団連第49回定期大会 発言通告)
発言テーマ:「医師の過不足と偏在について」
発言内容
第49回定期大会活動方針(案)の「(1)勤務医の働き方改革 過労死水準の時間外労働を減らし、例外規程の早期撤廃を」と「(2)偏在是正は、強制でなく医師増と公的支援の拡充で」(10~11ページ)について、文献を引用しつつ若干の肉付けを試みたい。
①人口減少社会の日本では、2030年ころを境に医療需要が減少する傾向になる。医師養成数が今のままとしても、いずれ医師は過剰となる認識が必要。
②総医療費の中の医師の人件費は、ほぼ20%と医師数には依存しない傾向がある。つまり、歯科医師や弁護士の例のごとく、医師が過度に過剰になると、給与が減り医療の質と医師の士気に悪影響を与える。業界団体自体の予測であっても身勝手とはいえない。
ちなみに、「診療報酬改定時には、医師の給与も他産業の賃金動向を反映せよ」、という毎日新聞の社説もあった(2019.12.30)。
③医師は増えるほど都市部に集積していく傾向にある。医師の地理的偏在を医師数増加だけでは解決できない。考えられる処方箋は以下の通り。(イ)地域枠制度の利用(医師が出身地に根付く傾向があるという考え方:homecoming salmon仮説)、(ロ)総合診療専門医(GP)の増加(但し、日本のGPは未だ機能しておらず、迷走中)、(ハ)診療を医師だけに委ねない(タスク・シフティング、ワーク・シェアリング)。
④医師がある程度過剰に分布していないと、適切な医師の分布を持続的に維持することは困難。①が正しいとすると一部分の解決は時間の問題、とも言える。
⑤「開業規制につながる施策は取るべきではない」とあるが、あらゆる公的規制を排除することではないと解したい。各国の医師の適切分布の対策の一端は以下の通り。
イギリス:総合医(GP)数の地域ごとの公的制限。
ドイツ:地方ごとの開業医数の公的制限。
フランス:公的に地域ごとの病床数や医療機器が決められて、病院の地理的偏在を起きにくくしている。しかし、自由開業医は地域ごとの制限はなく偏在はある。
⑥人口あたりの医師数をOECD諸国と単純に比較することに問題はないか。わが国は他の先進諸国が経験したことのない超高齢人口減社会を迎えているのだから。
この発言の内容は、主に「医師の不足と過剰」(桐野高明著 東京大学出版会 2018)に拠るところ大である。